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アイルランドの手工芸と「女性の仕事?」がテーマ ROISIN PIERCE 2024-25秋冬コレクション 若手デザイナー【2】

2024年5月28日


ここ数シーズンは、パンデミックを経て試行錯誤の中から、老舗メゾンでも若手デザイナーを積極的に登用し、年齢も国籍も多様なデザイナーの抜擢が続きました。
また、LVMHプライズや、ロンドンのNPO法人FASHION EAST、英国ファッション協会が主催するNEWGENなど、若い才能を育てる支援の動きが高まっています。
今回は2024-25秋冬コレクションで藤岡篤子が取材した、Z世代など若き才能あふれるデザイナーにフォーカスしてお届けしています。

第2回目の今日は、今季からDover Street Market Paris(以下 DSMP)の支援が決定したアイルランド出身のデザイナー、ロイシン・ピアスに注目!

ロイシンはアイルランド、ダブリンのアート&デザイン国立大学にてテキスタイルデザインを学び2019年卒業。
デビューコレクション「Mná i Bhláth (Women in Bloom咲き誇る女性達)」は
2020年に第34回イエール国際フェスティバルにてシャネルのメティエダール賞を受賞し、
2022年にはLVMH賞の最終選考に選出され、
2022年Forbes誌の30 Under 30 Europeアート&カルチャー部門にも選ばれました。

ROISIN PIERCE 2024FWコレクション 繊細なクロシェや手仕事 DSMP展示会にて

まず一目見て特徴的なのは、純白、白一色で作られていること。
ガーゼやシルクに、母との共作であるアイルランド・クロシェ、レース編みを織り交ぜ、スモッキングや垂れさがるリボンが幻想的な造形美を生み出しています。

純粋無垢な白一色の世界と繊細な手工芸による独特の造形美。
生み出されたドレス達は妖精のようにポエティックでフェミニンですが
その背景には強い想いが込められています。

デビューコレクションでは、自身のルーツ、アイルランドで実際に運営されていた女性の矯正収容施設、マグダレン洗濯所(※)への怒りをテーマに制作。
収容されていた女性たちが生産していた、クロシェやレース編みなど、アイルランドの伝統的で複雑な手工芸の技法を取り入れることで、歴史的に女性が強いられてきた事実や守られるべき権利について触れ、問いを投げかけるコレクションとなりました。


※ プロテスタント、のちにカトリックの戒律のもと、婚外交渉を行ったとされる女性や少女の収容施設・修道院として国家が運営していたが、収容された女性や少女達が過酷な強制労働を強いられ虐待を受けていたことが明るみに出て大問題となった。ダブリンにあった最後の収容所が閉鎖されたのは、1996年のこと

 

そしてもう一つ、彼女のコレクションで重要なのは、サステナビリティの考え方。
クリエイションにおいて、廃棄物をゼロにすることを重視しています。
学生時代から、サンプルを使用して何度も手を動かしていたという彼女ですが

正方形や長方形のパターンを用い、生地の切れ端も使用して過剰な廃棄物を出さないことが新たな造形を生んでいます。
アイルランドで母と協働し、少しずつ手作りしていく服作りは、これからの時代にものづくりを継続させるための答えの一つであり、ラグジュアリーを再定義するものとなるでしょう。


2024-25秋冬コレクションの招待状

 

2024-25秋冬コレクションのタイトルは、「O lovely one, girl that fell from a star」。
コレクション リリースにも記されたポエムは、詩人 Michelle Freyaとコラボレーションしたものだそうで、
彼女は平和と希望と愛をもたらすために地上にやってきた天使。
デザイナーの作りだす、繊細なクロシェやレース編みで小花や星を再現したエアリーなドレスたちは、さながら天使のようですが、
その背景には、この世の暗さを癒すようなデザイナーの視点があってこそのもの。
世の中の暗さをまっすぐに見つめたからこそ表現できる白と言えます。

今季のコレクションには1ルックだけ、アースカラーの深いブルーのドレスが。
今季からDSMPの支援が決定した彼女の、新たな展開が広がっていくことを示唆するかのようでした。
若きデザイナーのこれからの活躍に、ますます目が離せません!


パリ DSMPの展示会にて。写真右 黒のドレス:デザイナーのロイシン

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